「寂聴訳 源氏物語 巻五」(紫式部/瀬戸内寂聴訳)

だからこそ源氏に活躍して欲しかった

「寂聴訳 源氏物語 巻五」
(紫式部/瀬戸内寂聴訳)講談社文庫

冷泉院の美しい容貌に、
玉鬘は心を奪われる。
蛍の光に照らされて
浮かび上がった玉鬘の美貌に、
兵部卿宮の恋情は高まる。
源氏の使いとして
玉鬘を訪れた夕霧は、
藤袴を差し出し、
恋情を訴える。
しかし、玉鬘を妻に得たのは…。

寂聴訳源氏物語巻五は、
玉鬘をめぐる
玉鬘十帖が中心となっています。
その玉鬘と源氏の関係が微妙です。
若い頃に関係を持った夕顔の
忘れ形見なのですが、
源氏の子ではなく、内大臣の子です。
しかし夕顔のことが忘れられずに、
源氏は自分の娘として
手元に置いておくのです。
それでいながら玉鬘に恋をしてしまい、
あの手この手で口説き始める源氏です。

若い頃の源氏は、
そこからすぐに恋物語が
始まってしまったのでしょうが、
人間も四十に近づくと、
なかなかそうはいきません。
玉鬘十帖は、
源氏が恋に突き進めない
もどかしさを感じてなりません。

さて、その玉鬘、
源氏の恋心をはぐらかし、
いろいろな男性からの求婚も
上手にすり抜け、そうかと思うと
源氏と親子でもあり恋人でもある
不思議な関係にもなりながら…、結局、
鬚黒の大将の妻になってしまいます。
でも、その部分は
まったく説明されていません。

「真木柱」の帖の冒頭、
「こんなことを帝がお耳にされたら
 畏れ多い。
 当分は世間に知れ渡らぬよう、
 内密にしておくように」
から
始まるのですが、読み手にしてみれば
理解するまで時間がかかります。
何が何だかわからないうちに
玉鬘は鬚黒大将と結婚しているのです。
強引に関係させられてしまったと
いうことはわかるのですが、
ここまでの経緯を考えると、
読み手にとっては消化不良の感が
拭えません。

父親世代となる源氏は、
そうそう浮き名を流しているわけには
いかなかったのでしょう。
でも、父親世代になってしまった
自分としては、だからこそ
源氏に恋の道で活躍して欲しいのです。
自分の分身として…。

…いやいや、
そんなことを考えてはいけません。
さあ、このあと源氏は
どんな恋愛をしていくのか。
かつての益荒男ぶりを
もう見ることはできないのか。
源氏物語、いよいよ後半戦突入です。

※巻五では、源氏よりも
 玉鬘、鬚黒、柏木、夕霧、
 雲居雁、近江の君といった、
 次の世代の人物たちが
 生き生きと跋扈しています。
 これまで以上に周囲の登場人物を
 丁寧に描いている紫式部の筆致が
 見事です。

(2020.9.5)

keisuke3さんによる写真ACからの写真

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